DTM・宅録・楽曲制作、ピアノやアコースティックギターなど生楽器の練習など、賃貸住宅に住んでいる方の一番の悩みといえば『防音対策』ではないでしょうか。
今回は、音楽活動とは切り離せない「防音」について解説していきます。筆者の自宅スタジオの音響環境も紹介していますので、参考にしていただければと思います。
結論:賃貸で防音対策は『無意味』です。
残念ですが、賃貸アパート・マンションでの ”防音対策” は意味がありません。その理由は3つあます。
①必要なことは「遮音・防振」すること
遮音設計では、直接音だけでなく、壁・床・天井に入射した音が物体内を伝搬し隣室に放射する音(固体伝搬音)があるため遮音・防振構造(浮遮音層)が必要となります。
また、楽器の振動を伝搬させないような床の防振構造が必要不可欠となります。
ネット上では「防音アイテム」と称して、マット、カーテン、隙間テープ、防音材などさまざま紹介されていますが、どれも期待する効果はないので注意しましょう。
俗に言う「防音」とは、スタジオなどに採用される「遮音・防振構造」がセオリーで、部屋の中に ”入れ子” でもう1つ部屋がある構造にする必要があります。
リフォームレベルの大掛かりな工事になるので、賃貸住宅に導入するのは現実的ではなく、間違いなくトラブルになるでしょう。
②低音の振動は「建物全体」に伝わる
リハーサルスタジオ・ライブハウスの待合室、イベント会場、花火大会、犬・猫の唸り声、ウーファー全開のヤン車、親父のイビキ、などなど…
遠くで鳴っている低音が聞こえてきた経験があるかと思います。低音は遠くに広がる特徴があり、振動が少なく波長が長いことから障害物を回り込みます。
低音の遮音・防振の対策は、専門業者ですら難易度が高く、リフォームのできない賃貸住宅では残念ながら対処する術がありません。
③多額の「コスト」がかかる
一戸建てや分譲マンションにお住まいなら工事することも可能ですが、一般的に遮音・防振工事は数百万かかります。
(都内の戸建てに住むドラマーの知人は、1000万円かかってました 苦笑)
最近では、「DIYでなんとかする!」という猛者もいますが、音が響きやすい木造・軽量鉄骨造は無意味ですのでご注意ください。
たった1つの『解決策』とは・・・?
賃貸住宅にお住まいの場合、解決策はシンプルに「楽器OKの物件に引越す」こと。
家賃が高くなるデメリットもありますが、音楽に全集中できる ”音が漏れない・侵入してこない環境” が手に入るメリットの方が大きいことは想像がつくと思います。
引越しが難しい場合は、”簡易防音室”がもう1つの解決策になるかもしれません。(高価な上に場所も取るのであまりオススメしませんが…焦)
音は『吸音』して音場を整える
ここまでの内容で、いわゆる「防音」と呼ばれるものは、遮音性・防振性 のことを指していることが分かったと思います。
しかし、音響環境を改善するには ”音場を整える”ことも重要で、楽器演奏やDTMでのモニタリングに大きな影響があります。
音が「反射」する仕組み
一般的な賃貸アパート・マンションで音響は考慮されるはずもなく、DTMや宅録にとって ”邪魔” になる余韻が発生します。
部屋の中で「パン!」と手を叩くと反響音が聞こえるように、壁や障害物などに反射を繰り返して残響します。音は硬い素材ほど反射しやすく、反射する回数も増えます。
音の反射を「吸音」でコントロールする
部屋の音響環境を調整するなら”吸音” が最も効果的 です。具体的には、次の3つのアイテムで不要な残響音は十分に取り除けます。
- カーペット ※厚手
- カーテン ※厚手
- 吸音材
自宅スタジオの『吸音材』を紹介
筆者(Kanpapa)の自宅スタジオに設置してある「吸音材」を紹介したいと思います。自分で仕上げたので少しゆがみはありますが、音場がクリアになったので大満足です。
①スピーカー周辺
自宅スタジオでは、出窓にスピーカーや周辺機器を置いています。本当は ”スピーカーは壁から離したほうが良い” のですが、スペースの活用を優先しました。
壁が近いせいで音場がボヤけるので、サイド・バックに吸音材を設置すると音の濁りは解消。とくに中音域がスッキリしたので、PANの位置が分かりやすくなりました。
②スピーカー対面の壁
自宅スタジオでは高音域の反響が気になったので、スピーカー対面の壁上部にも吸音材を設置しています。
全面に貼ったことで、中音域~中低音域の反響が引き締まった感じになりました。低音域の吸音は限界がありますが、角に設置すると効果的のようです。
③サイドの壁
自宅スタジオの場合、サイドの吸音に変化はさほど感じられず…。ただし、アコースティックギターなど生楽器のレコーディングには効果を発揮しました。
タイトな音場で録音したいときは吸音材の近く、ルーム感が欲しいときは離れる。極端に違うわけではないですが、以前よりミックス時の音作りがラクになりました。
ちなみに、このピラミッド型の物体は「拡散パネル」と呼ばれるもの。音を拡散反射させることで、各帯域の衝突を防いで音場を改善するアイテムです。
吸音はしないので、空間の響きはそのままにクリアに聞こえるように調整されるイメージです。
吸音材のほかに『準備』するもの
吸音材を設置する場合は、次の5点を準備しましょう。ホームセンターでは扱ってないモノや、欠品しやすいモノもあるのでネット注文が確実です。
加工時、特別な工具などは一切不要です。よく切れるカッターだけあれば良いです。
①吸音材
筆者の場合は、6畳間で縦50cm・横50cm・厚さ5cmの吸音材を12枚使用しました。反響の少ない部屋なら、暑さ3~4cmでも効果があるかと思います。
最近はさまざまな商品が出回っていますが、安価な吸音材は ”密度が低い” ので注意してください。国産製品であれば、品質が良く、年間保証もあるのでオススメです。
②プラスチックダンボール
プラダンは、吸音材と壁の接着面に使用します。縦91cm・横45cmを半分にすると吸音材2枚分になるので、それほど枚数は必要ありません。
大きいサイズ(縦182cm・横91cmなど)は多少値段は安くなりますが、作業スペースが広くないとカット加工するときに大変なので注意しましょう。
③弾性接着剤
吸音材に採用されるポリウレタン素材は、一般の接着剤や、強力両面テープでは接着できないので注意が必要です。
筆者の場合は、「セメダイン スーパーXハイパーワイド」を2本購入して使用量は1本半ほどでした。
④強力両面テープ
強力両面テープは、壁とプラダンの接着に使用します。文房具のようなペラペラ薄いものはすぐに剥がれるので注意してください。
筆者の場合は、業務用でお馴染みスコッチ(3M Japan)の3mを何度か買い足して計5個購入。吸音材を何枚作るかにもよりますが、10~20mはあった方が良いでしょう。
⑤養生テープ
強力両面テープは想像以上に強力で、剥がすときに壁紙も剥がしてしまうほど。賃貸住宅でなくても困ってしまいますよね…。
そこで、” 壁 → 養生テープ → 吸音材”と、養生テープを間にかますことで壁紙を保護することができます。
吸音材の『貼り方』と注意点
吸音材の設置には、大きく3つの手順があります。ウレタン材質の吸音材は、”両面テープでは貼れない” ので、少し手を加えるのがポイントです。
①吸音材とプラダンをカットする
設置する場所が決まったら、吸音材、プラダンをカットします。このとき、プラダンは吸音材より1.5cm~3cm 短くカットするのがポイントです。
ピッタリにプラダンを切ると吸音材の端から見えてしまうので、壁に貼りつけたあとカッコ悪い見栄えになってしまいます(焦)
②吸音材とプラダンを接着する
プラダンにセメダインをつけて吸音材の裏面に接着します。弾性接着剤は、瞬間接着剤と違って完全に接着するまで1日間ほどかかります。
今回設置する吸音材すべての接着を済ませて、上に重しを置くなどして一晩待ちます。
③吸音材を壁に貼りつける
吸音材を貼りつけたい壁の位置に、養生テープ → 強力両面テープの順で貼りつけます。フィルムを剥がして、吸音材(プラダン)を押しながら貼りつければ完成です。
吸音材を並べて配置する場合、位置の微調整が発生しやすくなります。とくに、養生テープの縦のラインを2列(太く)にすると手間が省けます。
上画像は、吸音材を壁に貼りつけたあとです。一度剥がしたとしても、養生テープと強力両面テープさえあれば吸音材を使い回すことができます。
最後に
防音といっても、「遮音」「防振」「吸音」と目的によって対策はさまざま。
手っ取り早いのは、楽器OKの物件に引越すこと。ご近所さんを気にせずに、ミックス作業や練習できるのはメリットが大きいですし、メンタル的にも負担がありません。
音漏れ・侵入が原因で音楽活動に支障をきたすようであれば、ご自身に合った音響環境の改善策をこの機会に検討してみてください。